Lesson12-1 ガーデンセラピーの基礎知識

近年、高ストレス社会が生むうつ病や高齢化に伴う認知症の患者数が増加の一途を辿っています。厚生労働省の調査によると、2014年時点でうつ病など、気分障害の患者数は推計111万6千人と、3年前(95.8万人)の調査に比べておよそ16万人増加、調査開始の1996年(43.4万人)と比較すると、実に2.5倍も増えています。異常ともいえるほどの数値です。

また、認知症患者は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されており、2025年には700万人まで増加すると予想されています。恐ろしいことに、今後もこの勢いはとどまるところを知りません。いったい何がこのような事態を招いているのでしょうか。

自然から切り離された生活環境が健康被害をもたらす

考えられる一つの要因として、「環境の変化によるストレス」があります。

ITの普及に伴い、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末の利用者が増加し、今や電車の中でほとんどの人がモバイル端末を操作しているといった光景も珍しくなくなりました。ITは私たちの生活を便利にしてくれる反面、電磁波による脳への影響や画面から出るブルーライトによる眼精疲労、さらには睡眠障害を引き起こすなどの問題が医療の現場から指摘されています。

加えて、本来くつろぎの空間である住宅までもが、高断熱・高気密を重視した建築設計となり、外部環境から遮断された「カプセル」のようになっています。これら人工的に作られた生活環境の変化がストレスの原因となり、さまざまな精神疾患を生むと言われています。

最近は、健康志向が高くなり、スポーツジム・ヨガ・整体などに通って健康的な体づくりをする人も増えてきました。しかし、慌ただしく仕事に追われる現代社会において、これらを継続することは容易ではありません。日々の暮らしの中で無理なく自然に続けられ、ストレスを解放し、病気を未然に防ぐ方法はないのでしょうか。

心身を癒す自然療法「ガーデンセラピー」

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人は自然の中で生まれ育ってきました。つまり、人は自然の一部であり、自然の中には、心身を健康へと導くすべてがあります。そして、庭こそが私たちの身近にある自然なのです。

現代医療において、ガーデンセラピーには、ストレスを解放し、病気を予防・改善するなど、心身の健康を得られる力があると言われています。事実、医療の専門家や大学の研究所がそれを裏付ける科学的根拠を証明しているほど、信頼性の高い自然療法として広く知られています。

ガーデンセラピーを行う際は、人が外界の状態を認識する5つの感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を満足させることがキーワードとなります。これらの感覚を満たすことで、行動や思考など様々な感情が生まれ、心身ともに健康な体へ導くことができます。

またガーデンセラピーは、下記6つの療法が直接関係しています。それぞれの療法が暮らしの中で自然に行えるような空間を創ることが望まれます。

療法の種類 期待される効果
芳香療法(アロマセラピー) 草花の持つ香りを利用して、体調不良の改善や予防、
リラックス効果を得て、健康増進に役立てていく療法。
芸術療法(アートセラピー) 絵画、写真などの芸術・表現活動を通して、心身の健康を
促進する療法。ガーデニングで自然の美しさに触れることも
アートセラピーに含まれます。
森林療法(フォレストセラピー) 森の中でウォーキングやトレッキングをして、健康の回復
や維持、安定した精神の向上を目指す。ドイツでは健康保険
の適用もされており、歴史ある療法の一つ。
食事療法 ガーデニングでハーブや野菜を育て、それを食事に用いる
ことで楽しい時間を作り、ストレスを和らげることを目指す。
園芸療法(ホーティカルチュアルセラピー) 植物を管理し、生長を助ける中で役割を見出し、充実感や
自分の存在感を感じられる効果が得られることから
リハビリや介護福祉施設などで多く用いられている療法。
住まい方療法 緑のある住まいづくりをもとにしたライフスタイルを楽しむ。
例えば、家族や近隣とのコミュニティケーションの発展や
きっかけ、ホームリゾートなど。